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2007/04/29

クイーン

連休の初日は、娘と映画を観に行くことになった。混雑が予想されるので、朝一番の回にして、しかも横浜は避けて、川崎へ出ることにした。

先日行ったラゾーナ川崎ではなく、同じくチネチッタの巨大客層を狙って、駅近くに建てられた「Dice」に入っているシネコン「Tohoシネマ」で、「The Queen」を観る。アカデミー主演女優賞をとったHelen Mirrenは、以前から注目していた女優だ。なんといってもグラナダTV「第一容疑者」での演技が印象に残っている。

「The Queen」のポイントは、二つだと思う。これを言ってしまったからといって、全体の筋を知ってしまうわけでもないし、映画を観る価値が減るわけではないので、ここに書き付けても良いのではないかと思う。

ひとつは、エリザベス二世自身を描いている部分であり、もうひとつはエリザベス二世と周りの世界(とくに、ダイアナ事件)との関係を描いている部分である。どちらを描こうとしているのかの解釈によって、なかで使われているエピソードの解釈がかなり異なる。

たとえば、「鹿」のモチーフが出てくるが、この意味は何だったのだろうか。映画の筋に素直に従えば、女王がマスコミに追い詰められていく自身の姿を、狩で追い詰められた「鹿」という姿に仮託して比喩的にあらわしたのだと言えよう。女王がひとりになったときに、この鹿がふっと現れるのだ。パンフレットでも、鹿は「威厳あるもの」の象徴で、王室のメタファーである、と脚本家に答えさせている。

娘の解釈はちょっと違っていた。「鹿」は、エリザベスでなく、ダイアナではないか、という。理由は、三つある。ひとつには、「鹿」の話はダイアナがパパラッチに追いかけられ、事故死するすぐあとに、狩のエピソードとして出されており、ダイアナとエリザベスとの関係の符牒となっていること。ふたつには、エリザベスは象徴的な鹿が撃たれて小屋に保存されているところに行って、「美しい綺麗な鹿」として見舞っていること。映画のなかで、エリザベスが鹿の首の傷を撫でるシーンがある。死んでしまっているのであれば、王室の象徴としては適さないのでないかと言えるだろう。三つ目の理由としては、この鹿がエリザベスの領地で撃たれたのではなく、逃れていった隣の領地で撃たれたことになっており、まさにダイアナがパリという隣国のフランスで死ぬということに符牒している。さて、この解釈はいかがだろうか。

もうひとつの例を挙げておきたい。エリザベスの涙、というシーンがあった。河で鹿に出会うまえのところである。ここでエリザベスが泣くのであるが、それは自分の追い詰められた苦しさを嘆いたのか、それとも、ひとりになって、役割としてダイアナを非難してきたことから醒めて、個人感情として、ダイアナに涙したのか、というふたつの解釈がありうる。これも、エリザベス中心に描いたのか、それとも、周りの世界を描いたのかによって、解釈が異なってくる例である。

帰りに、銀柳(ぎんりゅう)通りの古い商店街の喫茶店で、生クリームたっぷりのコーヒーを飲んだ。新しい「ラゾーナ」や「ダイス」に負けずに、人の流れが本来の商店街にも及んでいる。川崎の活気の秘密は、このように新旧それぞれの特色を生かした発展にあるのかもしれない。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。