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2007/02/28

真実の困難さ

ゴアの映画「不都合な真実」をみてきた。

真実であることを人に信じさせることが、たいへん難しい時代なのだな、という印象が先にたった。地球温暖化をテーマとしたまじめな内容と、政治的な要素の多い映画だった。

内容の真実さを科学的な根拠で明らかにしようと、ゴアはこの映画のなかで再三述べている。けれども、このことを言えば言うほど、この映画はいわゆるプロパガンダ(意図を持った宣伝)映画になる。

映像で真実を描くことには、限界があるのは否めないだろう。もっとも、言葉が真実を伝達できる程度には伝えることはできるかもしれないが。

たとえば、昨年起こったハリケーン「カトリーナ」の悲惨な現場を映像で映しながら、これが地球温暖化の証拠です、と言われても、それは直接的な気象現象とどこが違うのだろうか。これらが頻繁に起こることがおかしいということだろうか。

この映画で説明されていることが、真実か否かということを疑い出したら、この映画の守備範囲からかなり離れなければならなくなる。この映画内容の真偽論争については喧しいが、ここではあまり立ち入らない。

むしろ、製作者はプロパガンダを意識的に行っている映画に仕立てている。地球温暖化を主題とした映画であるより、むしろプロパガンダを主題とした映画を意識しているのだと思われる位だ。

それが証拠に、「ゴア」の映像中心の映画になっており、彼に語らせることでこの映画は成り立っているのだ。延々と、彼が何千回も世界中で行ってきた「スライド講座」を映す。このゴアのしゃべり自体を映像にしたい、と製作者は考えたに違いないのだ。

科学的な説明を真剣に行いたいのであれば、その内容に相応しい講演者や説明が可能であったはずである。そうではなく、ゴアという、ひとつの「ブランド」を使う意味は、やはりプロパガンダにあるのではないかと思われる。

今回注目したのは、「プロパガンダの商品化」という点である。本来、環境の考え方というのは、商品社会の外部にあるために、倫理的な観点を入れたり、社会的な責任を継ぎ足さなければ、商品社会への参入はできない。

けれども、この映画が強靭だと思われるのは、このような「商品足り得ないこと」を映画という「商品」に仕立ててしまっているという点である。

本来商品化できないものを商品として成り立たせるにはどうしたらよいか、というヒントが詰まった映画であると思う。なぜ商品化が可能だったのだろうか。

その理由としては、第一に、ゴアというブランドを採用したこと。第二に、地球温暖化という知識群(真偽両方が含まれている複雑群であることが大切)が、わたしたちの生活の中に浸透してきているという事実を挙げることができよう。

そして、やはり抜かすことができないのは、そろそろ米大統領選挙ということが話題になってきており、あのときのゴアは今何をしているのか、とみんな考えていたということもあるだろう。

米大統領選挙というタイミングを利用したことは大きいと思われる。(映画のなかの、「一瞬、米大統領になった男」です、という台詞は効いていた。)

商品化という視点から見ると、この映画はアメリカ文化批判という内容とは違って、きわめてアメリカ的な手法を大胆に取り入れた映画であるといえる。グローバリゼーションの尖兵を逆手にとって、商品化できないものを商品化して、世界中に「輸出」し、グローバリゼーションの最先端を築いている映画であると評することも可能だと思った。アメリカ映画産業は、商品化というシステムを極限まで利用しつくしている点で、スゴイと思う。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。