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2006/11/25

喫茶店パールあるいは「古さ」について

広島駅前には、昔の闇市を思わせる市場が残っている。ごちゃごちゃとした、良い意味での猥雑な伝統を残している。よそ者からみると、だいぶ廃れてきているとはいえ、まだまだ市民の支持をかなり得ているように思われる。013

その一角にパールという喫茶店がある。写真で見てわかるように、ビル全体から沸き出るように「古さ」を誇示しているのを観察できる。かなり味のある「古さ」だ。

パールという「古さ」の存立基盤はどこにあるのか。駅前という一等地でありながら、このような状況が許されるのはなぜか、という点はたいへん面白いテーマだ。関東近辺の地方都市ならば、直ちに取り壊され、近代的なビルに建て替えられてしまっていることだろう。

ドアを開けて入ると、パールの日常がわっと襲ってくる。今はほんとうに珍しくなったが、たばこの煙がもうもうとして、常連客が店の中央を占めている。競馬の実況放送の中で、なにやら街の井戸端会議が始まっている。

店のなかには昭和30年代を思わせるような木像がおいてあったり、野球のサインボールが収まるショウウインドウが、通路にむき出しで置かれていたり、さら010には二階に通じる螺旋階段を眺めていると昔への旅を妙に誘うのだ。

わたしの座ったボックスの壁には、どうゆうわけか船の舵が貼り付けられていて、古さを演出する道具として、最大の効果をあげていた。

さて、それではパールの「古さ」とはいったい何なのだろうか。

第一に、古くからの常連客がついていることは、おそらくパールの変わらない要因だろう。改装話が持ち上がるたびに反対しただろうことが目に浮かんでくる。パールの古さは、かれらの親密な関係を抜きにはありえないと想像される。

第二に、パールの古さは、建物の古さであり、装飾品の古さでもあり、さらに運営する人びとの古さに由来している。このことはたいへん良いことである。頑固に守り続けなければ、失われてしまうものは、今日の世の中には数多い。その中で、守り抜くことの困難さと諦めは、古さを誇示する建物とご本人たちがいちばん知っているのではないか。

けれども、パールの真の存立基盤は、実は次の第三の理由によると考えられる。それは、周りの環境である。猥雑な店が並ぶ市場群が、これほど残っていなかったならば、あのたばこをもうもうとさせる雰囲気は維持できなかったに違いない。そのような常連が来るような周りの雰囲気が必要なのだ。

古さというソーシャル・キャピタルがパールを支えている。ここでいう古さとは「親密さ」「固定」「雰囲気」なのだ。どこまで維持できるかは、これらと世間一般とのバランスにかかっている。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。