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2006/10/01

経験の厚さ

毎年この時期に感じることは、「経験の厚さ」というのは大切だ、という(きわめて当たり前であるが現実的な)ことである。

新学期を迎え、今日は放送大学の「入学者の集い」と「第1学期卒業式」が千葉学習センターで開かれた。入学式では、オリエンテーションの当番に当っていたので、しゃべる時間を節約して、すこし羽目をはずし、学生へのインタヴューを試みた。「なぜ放送大学へ入学したのですか」と・・・。

いつも感心するのは、突然の質問にもかかわらず、ほとんどの方が嫌な顔せずにすぐ応じてくださる点である。このような態度は、一般の大学では皆無である。やはり、放送大学の学生は実社会で揉まれていて、その分自分を表出することに慣れているのだ。

じつは、感心どころか、感動するのが、卒業式が終わったあとの、同窓会主催の懇親会である。どなたかが「人生劇場」と呼んでいたことが、まさにこの懇親会の内容をあらわしている。

最初の方が、「面接授業の朝、母を亡くし、まるまる授業を受けることができなかった。」と口火を切ると、「就学中に、夫と両親を看取りました」という方もいた。家族の健康は、学習を続ける絶対条件である。

「1981年に入学して、途中休学して、やっと卒業しました」「今年で13年目、一度再入学をして、すこしずつ単位を取りました」「6年半かかりました。思えば6年前に風呂に入っていたところ、S先生から電話がかかってきて、質問に丁寧に答えてくださり、すっかり風呂のお湯がぬるくなった覚えがあります。」今回、集まった方の多くは、かならずしも4年間卒業にはこだわらない方が多かった。物事を成就するには、時間を十分にかけ、それでも飽きずに、しかも諦めないということが重要だと痛切に思った。

「子どもが大学に入学して、自分を追い越していくような気がして・・・」「子どもに勉強しなさいと一度も言ったことがありません。わたしの勉強する姿を見て、自分から勉強するようになりました。」「子どもが司法試験を受けるのを逡巡しているのをみて、じゃわたしが受けてやる、とまず4年制大学を卒業しようと思いました」「子どもが大学を卒業する機会に、今度はわたしが卒業しようと考えました」

というように、子どもとの関係が学習にこれほど重要な要素として効く、とはわたしはこれまで考えたことがなかった。そういえば、今回の懇親会に、中学生のお嬢さんを連れてきていた卒業生がいて、彼女が卒業生たちの話をどのように聴いたのかも、たいへん興味のある点だ。(残念ながら、聞きそびれてしまったが)

いつも話題になるのは、大学の講義は役立つか、役立たないか、という永遠のテーマである。今回、途中から、役立たない派が勢力を盛り返してきた。もちろん、役には立たないから駄目だというのではなく、役に立たないから楽しいという論調だが。「仕事で理科系だったので、この大学ではその仕事の無関係の科目をとりました」という方がいた。

最後のほうでお話なさった方で、脳梗塞で左の手が効かなくなり、リハビリをしながら、放送大学で単位を取った牧師さんがいらっしゃった。すでに、単位は4回くらい卒業できる単位数を取っているそうだが、今回80歳の節目にようやく第1回目の卒業をすることにしたとのこと。

その方が言うには、卒業のために勉強しているわけではない、したがって、何が卒業時期を決めるのかといえば、自分の人生サイクルなのだそうだ。

このような方は、絶対に他の大学にいない。放送大学は、「新しい教養」を目指してきているが、実際にこのような体験談を聞いていると、彼らの体験、そして経験の厚さは、まさに今までの大学にはなかったような「新しい教養」の実例をそのまま提示しているのではないかと思われる。

実際に、その場で聴くと、これらの話は真に迫ってくるのだが・・・。今回、そのほんのすこしばかりを垣間見る気持ちで書き付けした次第である。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。