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2006/09/20

K市の喫茶店

昨日からの背景からして、街の雰囲気は喫茶店文化を育む土壌を持っている。基礎条件がきわめて良好だ。

西のK市、北のS市、そして関西圏、首都圏は広すぎて別格とすると、東のK市といっても良いのではないか。すこしひいき目もあるが。

喫茶店文化が廃れる原因は、観光客に依存するようになり、チェーン店に侵されるからである。そこで、観光客が押寄せない、もっともK市のディープな場所から攻めるべし。今日行こうとしているのは、もっとも駅から遠いところにある、カフェ・ロッシュである。最初から凄いところに当たったものだ。

周りはかつての栄えた中心街のなかにあるが、現在はおおかたの地方都市の例に漏れず、近辺はすさみ始めつつある。郊外の店との競争の影響をやはり受けている。

Losh1_1けれども、この店だけは、喫茶店特有の雰囲気を保っている。店の配置はかなり洒落ている。入り口に至るまで、商店街に面したところから数メートルの通路を通っていく。フランスのパサージュのように、商店街の現実からロッシュの非現実へ、ここで断ち切られるようになっている。

Losh2_1ドアを開けて店に入ると、おおよそ4つの空間が用意されている。周辺から中心 に向かって秩序立てられている。エントランスとでも言おうか、ドアから店の中核までにすこしアイドルな空間が設けられ、段差で区分けられている。低い壁で、ドアから直接店の真ん中へ行くことが出来ないことになっている。ここには、トイレへ通ずるドアも用意されていて、計画された細心の空間である。

「何も役立たない贅沢の空間」を実現している。この空間があるとないとでは、この喫茶店の雰囲気がまったく異なってくるだろう。

店に上がると、まず目に入ってくる空間は、カウンターと厨房を中心としたコーヒー抽出の心臓部である。と同時に、ひとり客の座る場所である。

カウンターは、くの字に曲がっていて、曲がった先の席では、見せびらかしの抽出工程の演技を後ろから見ることができる。ほかのホームページを覗いていたら、ロッシュの抽出方法は、フランス式の独特の方法が貫かれているそうである。かなり大きめのドリップ漏斗を使っていて、最初のものは捨ててしまい、二番目のものを客に振る舞うそうだ。

次の空間は、小さな二人がけのテーブルが4つほど並んでいて、小グループ席を構成している。もちろん、一人がけで占めても構わないし、店のなかでももっとも柔軟な場所となっている。どのような客でも20人くらいなら対応できる空間だ。

最後の空間が、ロッシュの特徴を現わしている。つまり、店の真ん中にシンボル・ゾーンが存在するのだ。ひとつは大テーブルで長椅子が作りつけになっており、もうひとつは古色蒼然としたガラス製の抽出器が展示されている。360度から眺められるようになったショウケースのなかに置かれているのだ。これが、「ロッシュ」なのだと思われる。

つまり、ロッシュ的な世界とは、4つに分けられているとはいえ、それらは重層化され、遠近化され、最後に統合された世界である。おそらく、ここに到達するまでには、気の遠くなるような試行錯誤と、多くの店の見学とを行った末にたどり着いたものであるのだろう。店主の努力は、まさに職人的で、誰にでもすぐまねのできる技ではない。

ふつうの喫茶店が、既存の環境を仕方なしに受け入れているのに対して、あきらかにロッシュはかなり反抗している。この反抗が自然のものと受け入れられるまでに、すでに相当の時間が経っているとは思われるが、まだまだこの思想は珈琲愛好家達のなかでは、自然なデザインであると考えられる領域には入ってこないだろう。これだけのデザインの統一性が理解されるまでに、まだ数十年を経なければならないのではないか。

食事はすこし離れた横丁を入った「ボンマルシェ」でハンバーグを食べ、そのあとのアルコールは、県庁裏にある「Four Hearts café」で、静岡産のエール(これは店主に勧められたもので、かなり美味しい)をハーフ・パイント飲んだ。

講義の肉体的な疲れは、パブ風の酒場で飲んでいるうちに、どこかへ飛んでいってしまった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。