« 三重学習センターと珈琲屋 | トップページ | 松阪と本居宣長 »

2006/08/18

貨幣のイメージ

今回の面接授業では、とくに貨幣に焦点を絞って話した。途中、こちらが一方的に話していても詰まらないので、学生の方々にも人生のなかでこれまで抱いてきた「貨幣のイメージ」を自由に書いてもらうことにした。

このような感想を書いてもらって、いつも感心することだが、やはり人生経験というのは大事だな、ということである。ふつうの大学生では、おそらく書けないような具体的で示唆的な文章に、いつも出会う。Iさんはつぎのように書いてきた。

「社会人になって、車を購入するときに、銀行から約100万円を借りたが、定職があったから借りられたのであり、信用されたからだと思う。そのおかげで、車で自由に旅行できるようになった。お金が無くても信用があれば、欲しいものが手に入る。このようにときには形があるが、ふつうは形のない不思議なものである。けれども、このとき利子を取られたのは痛かった。」

貨幣のイメージを答えてもらうときに、良いイメージと悪いイメージとを比べると、悪いイメージを答える人のほうが圧倒的に多い。けれども、放送大学学生のなかには、必ず積極的に考える人がいる。この点に、放送大学生の特徴がある。Tさんの文では。

「人間の日常生活に於いて、信用に代わるものが金銭である場合があり、生命の代償であったりします。行為の実現に於いては、成功達成の原動力に必須なものであり、貴重な生命力です。」

生命力の源泉とまで、貨幣を謳えあげるような、積極的な意見はこれまで行ってきた講義の中ではなかったなあ。一瞬、原始貨幣の時代ならなあ、と思ったりした。

もちろん、このような特異な目立った意見だけではなく、模範的な回答もたくさんあった。「物品であれば、保存できない経済的価値を、貨幣に託して、価値の保蔵が可能になる」とTaさんは言う。また、Yさんは「労働を評価するために、賃金などの貨幣価値が利用される」など指摘している。加えて、交換手段や支払手段としての貨幣の便利さや、欠点をあげている者も多い。血液循環と貨幣との比喩を指摘したのは、Isさんである。

今回の感想のなかで、ゲームに関連した貨幣のイメージを書いてきた方が3名ほどいて、これまでになかった傾向を示した。「インターネット上のゲーム内で使われる貨幣があり、これのインフレ対策が問題となっている」、というMさんの指摘は、貨幣の擬制的なあり方に関わってきていて、面白かった。また、リスク感覚が好きで、ギャンブルとして貨幣を株式投資へ回しているという実体験を書いてくれたSさんもいた。時代を反映している。

今回の感想文のなかで、ユニークさで最右翼にたったのは、審美眼的貨幣観を書いてきたSaさんだ。

「私が貨幣といって、まず思い浮かべるのは、10円玉に描かれた平等院である。不思議なことに、日本の現金・通貨はたいへん美しい。日本の数千年の歴史の美しさがそこに凝縮されており、10円玉はその中でも、私には最も美しいと思われる。10円という現存する貨幣でありながら、それを超えた芸術品でもある。その平等院をみていると、私はその中へ引き込まれるような気分になり、ミニチュア化し、その中を散歩してしまう。」

さらに、彼女の中では、頭の中の美しい貨幣は膨らんでいき、最後には、お金の尊さを再確認するに至る。というように、かなりのフェティシズムを表現している。造幣局の人が聞いたら喜ぶだろうな。

ユーモアのセンスで書いてくれたのは、Oさんである。

「エピソードはこれと言ってありません。貨幣に対するイメージでは、まず、家計のやりくりが思い浮かびます。景気が回復してきていると言われても、その実感はありません。何年経っても、やりくりは楽になりません。もっと収入を得ようと思いますが、障害に突き当たり、なかなか思うようにいきません。・・・“負け組”の家計からなんとか脱却したいのですが、悪循環の連鎖ばかりです。何か良い方法はないでしょうか?」

このように、放送大学生は、日常の現実を言葉で表現するのがうまい。このように客観的に書けることから考えると、Oさんは決して負け組ではないように思える。

感想文全体に言えることは、かれらはあまり深さを狙ってはいないものの、地に足がついた感想をつねに抱いているということである。これからも、ときどきこの手法をつかって、経済についてどのような感想を抱いているのか、実体験を聞きだしてみたいと考えている。

« 三重学習センターと珈琲屋 | トップページ | 松阪と本居宣長 »

大学関係」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173786/11515206

この記事へのトラックバック一覧です: 貨幣のイメージ:

« 三重学習センターと珈琲屋 | トップページ | 松阪と本居宣長 »

社会経営研究配布中

  • 2015study

社会経営ジャーナル配布中

  • 2015journal

開いている講義    「社会的協力論」

  • cooperation

「音を追究する」第13回・第14回

  • art

「多様なキャリアを考える」第2回・第3回・第4回

  • cooperation

「グローバル化と私たちの社会」第11回

  • cooperation
2017年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

Recommend

プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。