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2006/06/26

「アイボリーの財布」をめぐる関係

事件(こと)の始まりは、娘の好意(行為でなかったところが問題だ)にある。

父の日だから財布をプレゼントするという、百年に一度もおそらく無いような言葉に乗ってしまったことが発端だった。

060626_205001 ところが、当日になって、妻が白い財布を出してきて、これで十分よ、と言う。(白ではなく、アイボリーだと主張するので、そのとおり言うことにするが、真偽のほどは写真で確かめて欲しい。)

いただく方としては、十分よと言われてしまえば、返す言葉もない。有り難く押しいただくほかないだろう。

結果だけからみると、わたしは娘からの財布をもらい損ね、代わりに妻のお下がりのアイボリーの財布をもらうことになった。

さて、ここで話を面白くするために、ひとつのテーマを導き入れてみよう。互酬制(ここでは三者間の一方的な関係が連鎖として起こり、最後に連環の輪が閉じる制度としておく)の成立する可能性はあったのだろうか、ということを考えてみたい。

第一に、現実を直視するならば、じっさい互酬制は成り立たなかった、ということになる。娘の申し出を断って、妻からの贈与を受け入れたことになる。したがって、この時点で、互酬制は諦められたことになる。一方的な贈与関係とするか、あとで、妻に反対給付を送り、交換関係に持ち込むのかは、プライベートなことなので、秘密としておきたい。

第二に、アイボリーの財布は、じっさい女物であるのだから、まず妻から娘に贈与されるべきものである。そして、娘が使わないのであれば、仕方がないので、わたしが使おうということになれば、立派な互酬制を形成する。この方式は、三人を交換関係に巻き込んで、みんなの所属する輪が大きくなるので、家族の結束を強めるためにも、有効な手段となりうるだろう。

第三の可能性については、第二と出だしは同じである。まず、妻から娘に、この財布が贈与されるべきである、と考えられる。ここで、娘が機転を利かせて、自分はその財布を保有し、父に対してはこの財布と異なる財布を購入し贈ったとすれば、完璧な互酬制を形成することになるだろう。

さて、どの可能性が良いのだろうか。効率よい無駄のない方法が好みであるならば、第一の可能性ということになるだろう。けれども、三人の結束を強めるという観点を重視するならば、第三の可能性ということになるだろう。

三者がそれぞれ異なるものを贈与し、すべてが義務感を持ったという点では、この第三の可能性が互酬制として最も美しいと思われる。経済学を学ぶ者の一家を認識するならば、この方式がお勧めであることは分かるだろうに。

さて、最後の問題としては、このアイボリーの財布がとても大きくて、さも万札がたくさん挟み込まれているような印象を与えてしまう点である。中身が貧弱なので、もうすこし地味な財布が欲しかったな、とわたしは謙虚に反省しているところである。

最後の最後に、互酬制を導くどんでん返しの方法がないわけではない。つまり、回りめぐったアイボリーの財布を妻のところに改めて届けるという方法である。これで目出度く、連環の輪は完結する。けれども、この最後の手段は、せっかく成立させた互酬制を結果として崩壊させることでもある。さて、わたしにその根性があるのかといえば、・・・・・・・。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。